- 2020.2.5
テーマ:-慢性胃炎・ピロリ菌感染について- - 熊田 純子医師(内科副医長)
検診等で胃内視鏡検査や胃透視検査を受けられた時に慢性胃炎と診断されることがあります。慢性胃炎には様々な種類の胃炎がありますが、今回は日常診療で多く認める萎縮性胃炎に関して簡単にまとめました。
萎縮性胃炎とは、一般的にピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)に感染することで胃粘膜に炎症を起こした状態を指します。ピロリ菌は大きさ約0.5X2.5~4.0μmの小さな細菌で胃の中を移動しています。1979年に発見され、2001年に胃癌の発生の原因になっていることが研究で明らかになりました。
ピロリ菌はヒトからヒトへの経口感染であると推定されています。感染経路については、不完全処理された生活用水・井戸水に混入したピロリ菌による感染が疑われていましたが、衛生環境がよくなった現在では、ピロリ菌感染者の唾液を介した感染が考えられています。また、感染時期については、胃酸の分泌や胃粘膜の免疫力が弱い幼小児期に成立すると考えられています。
上下水道の普及によりピロリ保菌者は減っていますが、普及途上に子供世代だった50代以上の日本人の約50~60%が感染者と言われています。 胃がんによる死亡者数は、癌による死亡の男性2位、女性4位(2017年度人口動態統計による死亡データ)と日本人には多い傾向となっています。
そこで、ピロリ菌除菌治療による胃癌発症抑制が証明されたことで2013年2月からピロリ菌感染性胃炎に対する除菌治療が保険診療として認可されました。(今までは胃十二指腸潰瘍・胃癌の治療歴がある患者さんのみ)
ピロリ菌感染診断には血液検査、尿検査、尿素呼気試験、組織培養検査、便検査などがあります。当院で検査結果に数日かかるため結果は後日となります。 内視鏡で慢性胃炎を認め、検査で感染が確認された場合に除菌治療を行うことが可能となります。
治療は『3剤併用療法』といって、2種類の抗生物質と胃酸を抑える薬を1日2回、一週間服用するだけです。約1.5~2か月後に、除菌できたかどうかを呼気検査(吐いた息を検査する)で調べます。最初の治療で90~95%程度は除菌できますが、 下痢や腹痛などの副作用で薬を服用できなかったり、薬に耐性を持つピロリ菌がいるなどで除菌が失敗した場合、薬の種 類を変えて再び除菌療法を行うこともあります。
除菌治療を行うことで胃癌リスクは減少しますが、ゼロになることはありません。定期的に胃内視鏡検査を受けていただくことをお勧めします。
- 2019.8.26
テーマ:-小腸カプセル内視鏡について- - 中野 誠医師(内科医長待遇)
小腸は胃と大腸の間に存在する筋肉の管で、消化管の約80%を占めています。上から十二指腸、空腸、回腸の3つに区分されます。小腸の働きは、栄養分の吸収と輸送です。小腸からは消化酵素が分泌され、アミノ酸、ブドウ糖、脂肪酸などの最終的な分解物に消化します。 そして、この食物と消化液のまざったものを、移動させながら吸収していきます。
ところで、「小腸の病気は?」と言われてイメージが 湧くでしょうか。小腸は5-7mと長く、胃カメラや大腸カメラでは観察が難しい場所であり、どんな病気が 存在するのかわかっていませんでした。しかし、小腸内視鏡の 開発・改良により全小腸の観察が可能となり、現在では多くの小腸疾患が解明されてきています。代表的な疾患としては、癌などの腫瘍性の疾患、貧血の原因となる血管性の疾患、腸閉塞の原因となる狭窄性の疾患などが小腸に起こることがわかっています。
小腸検査の代表格といえばカプセル内視鏡です。カプセル内視鏡検査は比較的楽に行える検査でありながら、小腸病変の診断能力は、他の検査と比較しても、最も優れていると言われています。特に力を発揮するのが、貧血の原因となるような小さな潰瘍や血管性病変の発見です。これらの小病変はCTやMRI、バリウム検査などを使用しても発見することは困難であり、カプセル内視鏡を行わないとわかりません。また、小腸病変が貧血の原因とわかれば、今度は処置用の小腸内視鏡を使用して、治療することも可能です。
カプセル内視鏡検査の流れとしては、検査当日の朝のみ絶食で来院して頂きます。来院後は、ビタミン剤程度のカプセルを内服して頂くのみです。その後は、内服したカプセル内視鏡が自動的に小腸の写真を撮影していきます。基本的に患者さんに制限はありませんので、自由に外出や、帰宅して頂いても構いません。カプセル内視鏡内服後2時間後には飲水が可能になり、4時間後には食事摂取も可能となります。カプセル内視鏡内服後8時間経過した時点で帰院して頂いて、カプセルが小腸を通過していれば検査終了となります。このようにカプセル内視鏡検査においては、苦痛を感じることはほとんどないといってよいでしょう。 現在通院中の方で、原因不明の貧血がある方は、小腸に原因がある可能性もありますので、主治医に御相談下さい。